――“食の記憶を守り、未来の子どもたちに伝えるレストランを地方から”。
プロジェクト動画で、タケルは白雪ニンジンの種を指先でつまみ、静かに画面へ差し出した。
その頃、リナは役場の会議室でプレゼンをしていた。プロジェクターには屋台で撮った湯気の写真。
「この町の寒い冬を甘さで包むスープを、観光資源にしたいんです」
説明を終えると、年配の職員が席を立ち、柔らかい声で言った。
「味の力は数字より響きますね。協力しましょう」
拍手が起こった瞬間、リナはタケルの名前を思い出し、スマホを取り出した。閉じた画面にはまだ通知はない。それでも彼もまた火を絶やさずにいる、と直感が囁いた。
夜、町外れの雪原を歩きながら、リナは胸ポケットの種の封筒を握った。
「春になったら、ここに畑を作ろう」
月光に照らされた雪は白いキャンバス。指で一本の線を引き、未来の畝を描く。
遠く東京の空でも、タケルがビル屋上で同じ月を見上げていた。
「必ず、あの場所で皿を焼き直す」
都会の星が瞬く音は聞こえない。それでも二人の鼓動がひとつのリズムを刻み、離れた空で重なっていることを、どちらも確かに感じていた。



















