ニューロネットの夜明け – 第5章:企業潜入と対立|前編

「よし、今なら通れる」

エレベーターが到着してドアが開くと、エリカは数名の社員と一緒に中へ入る。ドアが閉まった後、さっとフロア選択用のパネルにIDをかざすと、一瞬だけ怪しげな音がしたが、結局エリカのカードは受け付けられたらしい。ドアが閉まり、エレベーターが静かに上昇を始める。

「ここまで順調……」

しかし、そのわずかな安心はすぐに打ち消されることになった。セキュリティルームで異常を検知したらしく、誰かがエレベーター稼働をモニタしている可能性がある。エリカは脳内チップを通じて社内ネットワークに潜りこみ、一時的に権限を乗っ取ることでエレベーターの動きを数秒だけ高速化させた。

目的階まで一気に到達すると、ドアが開く刹那、エリカは他の社員より先に素早く廊下へ飛び出し、曲がり角へと身を隠す。すると、遠くからアラートが微かに聞こえてきた。どうやらエレベーターの制御に不具合が出たという警告らしい。

「何が起きてるんだ?」

「セキュリティチームは状況を確認しろ!」

社内放送と思しき声が廊下に響き、社員たちが右往左往する気配がする。エリカは手早く廊下の監視カメラもオフにし、取締役や幹部が利用するエリアへ向かうために階段を選んだ。

一方、レオナルドは社内ネットワークを介してエレベーター制御の異常を確認すると、警戒態勢への切り替えを指示した。

「やはり侵入者がいる。急いでセキュリティガードを各階に配置して。特に幹部フロア付近を重点的に固めろ。オフィスの入り口に監視ドローンも待機させてくれ」

部下が慌ただしく動き出し、レオナルド自身もモニタで侵入者の推定位置を追おうとする。とはいえ、高度なハッキング技術を使われているのか、正確な場所を掴むのは簡単ではない。

「エリカなのか……?」

レオナルドは口には出さずとも、そう確信に近い思いを抱いていた。もし彼女がここに来ているならば、狙いは明らかに“プロジェクト・シナプス”の情報だろう。

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