ニューロネットの夜明け – 第5章:企業潜入と対立|前編

ロビーは天井が高く、ゆったりしたスペースに一面のタッチパネルディスプレイが並んでいる。各種案内や企業CMが流れ、ヴァル・セキュリティが如何に高度な防衛システムを提供しているかを誇示しているようだった。エリカは目立たないようにロビーの奥へ向かい、立ち止まってタブレットを取り出すふりをしながら、脳内チップで周囲の監視カメラを探知する。

「カメラの数、想像以上ね……」

脳内モニタに浮かぶカメラ位置マップを確認すると、その数は少なくとも20台以上。しかも、一部のカメラは最新式のAI解析が組み込まれており、人間の歩容や表情から異常行動を割り出すことができるらしい。エリカは人混みに紛れ、ターゲットとなるエレベーター付近まで歩を進めた。

一方、その頃、社内のセキュリティルームでは、レオナルドがモニタを見つめていた。昨夜から検知されている不審なアクセスログについて、セキュリティチームが報告を上げているところだ。ヴァル・セキュリティは普段から世界中の企業や政府機関の防壁を請け負っているため、ハッキング行為には日常的に備えている。しかし、ここ数日のログは何か違う。社内の動きを探るような怪しいパケットが断続的に検出されていた。

「レオナルドさん、どうもおかしいんです。通常の外部攻撃とはパターンが違いますし、社内IDを利用した形跡もあるのに発信元が特定できません」

若いセキュリティ技術者が苦い表情でモニタを指差す。レオナルドは深く考え込むように顎に手をやりながら答えた。

「つまり、内部の人間が偽造IDを使って社内に侵入している可能性が高い、か。どこかのタイミングで“直接”入り込もうとしているんだろう」

心当たりがまったくないわけではない。エリカが背後にいるかもしれない——そんな予感が、レオナルドの胸に浮かんでいた。

エリカはその瞬間、エレベーターを待つ人々の列に並んでいた。20階以上へ向かうには再度ID認証が必要だが、この偽造IDカードはそこまで対応している……はずだ。彼女は念のため、周囲にいる社員たちの会話をなんとなく耳にしながら脳内チップを操作し、監視カメラの一部をオフラインへと誘導しようとしていた。

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