ニューロネットの夜明け – 第5章:企業潜入と対立|前編

階段を駆け上がったエリカは、幹部エリアの廊下に出る際、一瞬だけ息を整える。ダクト経由で移動する案も考えたが、時間がかかりすぎると判断した。

「脳内チップとこの偽造IDがあれば、もう少しは保つはず……」

廊下には打ちっぱなしのコンクリート壁が続き、要所には防犯センサーらしき小さな装置が埋め込まれている。急ぎ足で進んだ先に、専用オフィスルームが並ぶフロアが見えてきた。

しかし、その奥には警備員と思しき人物が立っているのが目に入る。警備用スーツを着た二名が、巡回でもしているのか廊下の奥からゆっくりとこちらへ近づいてきた。エリカは視界の隅に、レオナルドの名が入ったドアプレートを捉える。彼のオフィスはすぐそこだ。

「まずい……」

慌てて廊下の角に身を隠し、脳内チップを使ってカメラ映像を確認する。自分の姿を捉えられてはいないものの、ガードたちはセキュリティチームからの指示を受けているらしく、警戒レベルが明らかに上がっている。

「……どうする?」

このまま出て行けば即座に声をかけられ、偽造IDがバレる可能性は高い。下手に逃げても追跡を呼び込むだけだ。ほんの数秒の間に思考を巡らせる。すると、エリカの脳内に警戒情報が流れ込んでくる。インフォリベレーションの仲間が外部からネットワークを妨害し、一時的に社内通信を混乱させるサポートをしてくれているのだ。

「今がチャンス……!」

一瞬だけ通信が不安定になった隙を突いて、エリカは足音を忍ばせながらオフィス近くの別の部屋に滑り込む。幸い、その部屋は会議に使われるスペースらしく誰もいない。目立たない隅に身を潜めてから、廊下の監視カメラを再度オフラインにし、ガードの位置を素早く確認する。

「大丈夫……まだこっちには気づいてない。でも、レオナルドのオフィスまで行くには、あのガードをどうにかしないと」

エリカは唇を噛みしめ、脳内チップをフル活用してルートを再検討する。ちょうど背面に非常口があるが、そこは厳重にロックされており、迂回すれば時間を失う可能性がある。

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