「何をしている! 止まれ!」
廊下のカメラがダウンしているとはいえ、企業内ネットワークの一部はまだ稼働中だ。何者かが幹部フロアに侵入しているという警告が出ているのだろう。エリカはドアを押し開ける寸前で、背後を振り返る。ガードがこちらに向かって走ってくる気配がある。
「まずい……」
ここで時間をかければ、完全に捕まる可能性が高い。エリカは咄嗟にドアを少しだけ開け、中へ身を滑り込ませる。そして、素早くロックを再設定して部屋の中に閉じこもる形を取った。ガードはドアの外側に迫るが、残念ながらオフィスへのアクセス権限は限られており、一瞬でドアを開けられないらしい。
「今が踏ん張りどころ……」
エリカはオフィス内の様子を一瞥する。広々とした室内には、高級なデスクや最新式のモニターが据え付けられている。レオナルドがどこにいるのかはまだわからないが、少なくとも彼の個人端末にアクセスできれば、プロジェクト・シナプスの核心に近づけるかもしれない。
ドアの向こうでガードの焦った声が聞こえた。鍵を強行解除しようとしているのか、キーを叩くような音が伝わってくる。エリカは急いでデスクに駆け寄り、脳内チップを使って端末を起動させる。時間がない。あと数秒でガードが飛び込んでくるかもしれない。この緊迫感の中、エリカは必死にセキュリティを突破しようと指を走らせていた。


















