ニューロネットの夜明け – 第6章:意識統合の危機|後編

「ここを守れなきゃ、私たちの持っている情報が全部潰される可能性があるわ」

ミアは声を震わせつつ、手際よく防衛スクリプトを走らせる。幸いインフォリベレーションのアジトにはバックアップ設備が複数あり、即座にデータを分散させることで完全な破壊は免れている。しかし、その間にも協力者に対する追跡が進み、一人また一人と連絡が取れなくなる報告が飛び込んでくる。

「これ以上オンラインでの攻撃だけじゃ勝負にならない。今の状況でリークを続けても、すぐに対策されてしまうわ」

エリカは歯がみしながらモニターを閉じる。世間の動きも混乱を深めるばかりだ。インフォリベレーションが拡散した情報によって、プロジェクト・シナプスの存在は以前より認知されつつあるものの、公式発表と陰謀論が入り乱れ、多くの人々は真相をつかめないまま右往左往している。テレビのニュース番組では政府寄りのコメンテーターが「意識統合は次世代のテクノロジーであり、将来の平和に寄与する」と語り、反対派を単なる過激派のように扱う。SNSも玉石混交で、多くの憶測が飛び交い、事態をさらに複雑にしていた。

「今の方法では決定打を与えられない。情報だけじゃ世論を動かすには限界があるのかもしれない」

エリカが沈んだ声で言うと、サイモンが机を叩いて立ち上がる。彼の目には焦燥と怒りが混じっていた。

「だから、次の一手を考えないといけないんだ。もうじゅうじゅう分かっているだろ? 言葉やネットワークの暴露だけじゃやつらは止まらない。ビアンカの研究所を物理的に叩くしかない」

エリカはその提案に小さくうなずきながらも、複雑そうに眉を寄せる。

「本当に研究所を破壊するの? 被験者がいる以上、安易な攻撃は危険じゃない?」

「わかってる。でも、あの実験が完成すれば、もっと多くの人が被害を受ける。強制的な意識共有なんて、こんな危険な計画を放置しておけば、いずれ社会全体が飲み込まれるかもしれない」

サイモンの言葉には説得力がある一方、その方法があまりに急進的であることはエリカも自覚している。これまで過激な手段を避けつつ情報開示に徹してきたが、実際、状況はほとんど好転していない。政府研究所の警備は日に日に厳しくなり、被験者はさらに増やされ、ビアンカは大規模実験を強行する姿勢を崩していない。

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