肉体の牢獄 – 後編
夕刻、監視ドローンが低く通る。空は低い。
帰路、歩道のガードレールに指を滑らせながら歩くと、金属が冷たくて、少しだけ気持ちがいい。
右から左へ、滑らせる。音が鳴る。
コン、コンコン、コン。
三・五・三。
俺は歩幅を少しだけ変える。六十から、五十八へ。すぐに矯正される。
けれど、変えられたことは、変えられない。
アパートのドアが、最短角度で開く。部屋は整っている。ベッドのシーツには皺がない。
机の上の引き出しを、体が開く。中に、必要なものだけがある。必要ではないものは、ない。
その隅に、細い金属のピンが一本、眠っていた。星の形。
俺の指は、その存在を視認しても、触れない。触れる権利がない。
記憶が遅れてやってくる。