序章 第1章:前編|後編 第2章:前編|後編 第3章:前編|後編
内なる戦場 – 前編
闇に沈んだはずの意識が、ふいに浮上した。
そこは現実ではなかった。だが夢とも違う。
霧に覆われた灰色の部屋。壁も床も曖昧で、手を伸ばせば溶けてしまいそうだった。
ただ一つ確かなのは、胸の奥で響く心拍の音だけだった。
ドクン。
半拍、遅れる鼓動。
その音が鳴るたび、霧の中に机の輪郭が現れたり消えたりする。
真白と宿題を並んでやった机。父が直してくれた古い木目。
記憶は曖昧だが、確かに“そこにあったもの”だ。
だが現れた瞬間に、鋭い声が空を裂いた。
「ノイズ検知。削除します」
霧が揺れ、机は直線に切り取られ、無機質な白銀の立方体へと変貌した。