絶望の記憶 – 前編

前編 後編

 病院の白い天井が、目覚めたリサの視界を覆っていた。身体はまるで棉花に包まれたように感じられ、頭の中は混濁した霧が立ちこめていた。彼女が名前を思い出したのは、全てが無に感じられる混乱の中で唯一のヒントだった。

 看護師の優しい声が聞こえた。「リサさん、どこも痛くありませんか?」

 リサは口を開いてみたが、言葉は出てこなかった。彼女の心は混沌とし、何が起きたのか理解することは難しかった。それでも、頭の奥深くにある一部分がしっかりと自分をリサと確認していた。

 日々はすぐに過ぎ、彼女は記憶喪失であることを受け入れる。それは、患者としての彼女に対する医師の診断だった。しかし、彼女の心の中には不安と疑問が湧き上がる。なぜ自分がここにいるのか、何が原因で記憶を失ったのか、そしてそれ以前の自分はどのような人間だったのか。

 彼女の唯一の手がかりは、病室に届いた一枚の写真だった。それは彼女自身と見知らぬ男性のツーショット写真で、その裏には短いメッセージが書かれていた。「待っています、心から愛している、ジョンより」。

 写真の男性、ジョンとは一体誰なのか。リサはこのジョンという男性が自分の記憶を取り戻す鍵だと直感する。彼女は混乱の中で一つの決断を下す。その決断は、彼女の運命を大きく動かすものとなる。



 リサは自分の記憶を取り戻すため、写真の男性を探し始める。だが、彼女の進む道は、自身も予想できないほどに複雑で険しいものとなる。

 彼女の病室を訪れる看護師たち、医師たちは彼女の記憶喪失について気を使い、話題を避けていた。だがリサは、自分の過去を知るために、一人一人に質問を投げかけた。それが痛みを伴うことを理解しながらも。

 数週間が経つと、リサの体調は順調に回復し、病院の外に足を踏み出すことができるようになった。しかし、彼女の心は未だに不安定で、記憶の欠片を追い求めていた。

 ジョンという男性について、誰も詳しいことを知らない。しかし、その写真はリサにとって大きな希望となった。その笑顔、その瞳、その手の温もりが自分の記憶をよぎる。彼女はその写真を手に、真実に向かって歩き出す。だが、その道のりは困難で、彼女を待ち受けるものは未知の世界だった。

 そして、それは彼女の人生の新たな旅の始まりとなる。

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