赤い封筒 – 第8話

プロローグ 第1話 第2話 第3話 第4話 第5話
第6話 第7話

 雨模様の空が広がる昼下がり、アキラはシンイチの事務所を訪れた。ビルの古いエレベーターを降り、狭い通路を抜けて薄暗い扉を開けると、事務所の中ではシンイチが山積みの資料に目を走らせていた。彼のデスク周りには散乱したコピー用紙やノートパソコンが並んでいて、いつになく切迫した雰囲気を醸している。

「どうした、随分資料が増えたな。」

「おまえのためにいろいろ調べていたらこうなった。とにかく聞いてくれ。ミツルの大学時代に起こした“騒動”について、もう少しはっきりしたことがわかった。」

 シンイチは乱雑に積み上げられたファイルから一冊を抜き出して見せる。それは大学の内部資料らしく、学生同士のトラブル事例が記録されているようだ。アキラは彼に促されて席に着くと、資料をざっと眺め始める。そこには過激ないじめがあったわけではないものの、ミツルが複数の学生から理不尽な評価を受け、孤立していた状況が断片的に綴られていた。

「ミツルの書いた詩や文章を馬鹿にするような言動が繰り返されていたらしい。さらに指導教授の判断ミスもあって、正式な評価を受けられなかった。で、その教授の周囲におまえも含まれていた形跡がある。」

「俺が……?」

「正確には、おまえを含む何人かの学生がミツルと同じゼミか、それに近いサークルに在籍していた。ミツルが激昂して大騒ぎした日は、おまえの名前も一緒に記録されている。詳しい経緯はわからないが、少なくとも何かしらの衝突があったのは間違いない。」

タイトルとURLをコピーしました