希望のカフェ – 第2話

第1話

新米店長の奮闘

朝の冷たい風が吹き抜けるなか、勇気は「希望のカフェ」の鍵を開ける。会社を辞め、母・亜希子が守ってきたこの店を正式に引き継いだ初日の朝。頭のなかにはやるべきことのリストが山積みだ。開店前の仕込み、コーヒー豆の計量、仕入れ先への連絡……都会での営業職の経験があるとはいえ、実際のカフェ経営はどこから手をつければいいのか戸惑うばかりだった。けれど、自分に代わって店を守ってほしいと願った母の思いに応えたい一心で、勇気は意を決してドアを押し開ける。

店内に入ると、昨日も遅くまで片づけをしていたはずなのに、調理器具やテーブルの拭き残しが目につく。頭を振って気を取り直し、まずは手始めに念入りな掃除からと意気込んで雑巾を手に取った。カウンターの奥にはまだ古いコーヒーミルが鎮座している。母がずっと使い続けてきたものだ。「これを大事にすると、豆の香りと味に宿るんだよ」と亜希子が誇らしげに話していた日のことをふと思い出す。店のあちこちに母の痕跡と、彼女が込めてきた愛情が染みついているのを感じ、勇気は胸が熱くなった。

ようやく開店準備を終え、ドアを開けて店先に「OPEN」の札を出したのは予定より30分遅れ。まだ客足の少ない平日の朝とはいえ、見通しの甘さに自分の未熟さを痛感する。ほどなくして、一番に現れたのは、いつもモーニングを楽しみに来る常連の男性客だ。彼は店に入るなり、「勇気くん、がんばってるわね。亜希子さんは今日はどうしたの?」と声をかける。

「母は今、病院に行ってるんです。これからは僕が店を引き継ぐことになりまして……まだまだ慣れなくてご迷惑をかけるかもしれません」

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