希望のカフェ – 第2話

その夜、店のカウンターに戻った勇気は、一人で明日の仕込みを考えていた。大量仕入れの提案をどうするべきか、どんなサービスが町の人々に喜ばれるのか、SNSを使って若い客層にアプローチするのはありなのか――答えの見えない疑問ばかりが頭をめぐる。だが、ふと母がいつも口にしていた言葉を思い出す。「お客さんのことを思って、一杯一杯丁寧に淹れる。それが一番大事なんだよ」。派手な宣伝や効率を追うだけじゃなく、まずは小さなことから積み重ねていくべきなのだと気づかされる。

父のいない環境で自分を育てながら、亜希子がひたすらにカフェを守ってきた理由――それは、訪れるお客さんの笑顔を見たいからにほかならない。高度なテクニックや革新的なビジネスモデルよりも、まずはその基本に立ち返る必要がある。それを母が教えてくれている。カウンターに残された母愛用のコーヒーミルを撫でながら、勇気はもう一度気持ちを奮い立たせる。これが、新米店長である自分の使命なのだと。

翌朝、病院に寄って母の容体を確認してから店へと向かう。まだあまり元気ではない母に、勇気は「無理をしなくていいから、ゆっくり休んで」と言う。亜希子は弱々しいながら「ありがとう……でも、お客さんの顔が見たいわ」とつぶやく。その言葉に背中を押されるように、勇気は走るようにカフェへ急ぐ。開けた扉から流れ込む冷たい外気に背筋を伸ばし、母が守り続けた“温もり”のある場所を必ず支えていこうと固く誓う。

一歩ずつ、壁にぶつかりながらも前に進むしかない。それが「新米店長」としての自分の歩む道なのだと、勇気はカウンターに立ち、ゆっくりとお湯を沸かす。コーヒーポットから立ち上る湯気の向こうに、亜希子の細い手がコーヒーミルを回していた懐かしい姿が浮かんでくる気がする。今、店は不安定な状態で、母の身体も思わしくない。それでもこの場所を照らすささやかな光を消さないために、やれることをひとつずつやっていく――そう心に誓い、勇気は今日もコーヒーを淹れ始める。

第1話

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