希望のカフェ – 第2話

店に戻る道すがら、勇気は思わずため息をつく。街中のカフェや大型チェーンとは違う地域密着の商売で、都会のビジネススキルが全て通用するわけではないと実感する。そんな自分の背中を押してくれるのは、町の常連客の存在だ。夕方、店を再び開くと、買い物帰りの主婦が「勇気くん、お母さんの調子はどう?」と声をかけてくれたり、商店街の仲間が「新メニューのアイデアなら相談乗るよ」と親身に言ってくれたりする。店の内装やプロモーションをどうすればいいかと頭を悩ませる勇気にとって、その何気ない優しさがなによりも心強い。

ある日、一人の若い女性客がふらりと店を訪れる。あまり見かけない顔に少し驚いた勇気が話しかけると、女性は「ここ、ずっと気になってたんです。地元の方に『コーヒーが美味しい店』って聞いて」と言う。

「ありがとうございます。まだ僕は見習いみたいなものなんですが……一応、店主の息子です」

そう言ってコーヒーを淹れたあと、女性はカップを覗き込み、「わあ、なんだか懐かしい香りがしますね。丁寧に淹れてますね」と嬉しそうに微笑む。その一言に、勇気は母の口癖を思い出す――「豆を大事にすると、いい香りが引き立つんだよ」。亜希子が時間をかけて見つけ出し、こだわり抜いた豆だからこそ引き出せる味が、ほんの少しずつでも受け継がれているのかもしれない。

そんなささやかな手応えを感じ始めた頃、店が混み合う夕方の時間帯に、突如として亜希子の容体が悪化したという連絡が病院から入る。「申し訳ありません、今日は閉店にさせていただきます」と客に頭を下げ、勇気は大慌てで店を閉める。時間を取り戻すように走って病院へ向かうと、亜希子は病室のベッドに横たわりながら、弱々しくも「大丈夫よ、ちょっと疲れちゃっただけだから」と声を絞り出す。以前にも増して痩せた母の姿は痛々しく、勇気の胸は苦しみに締めつけられる。

「店は大丈夫かい?」と心配する亜希子に、勇気は何も言えない。母が抱えているプレッシャーと、自分の覚悟の足りなさを思い知らされる思いだった。

「今はお店のことより、母さんの方が大事だから。俺が、ちゃんと守るって決めたからさ」

そう言いながら勇気は母の手を握る。亜希子は安心したように息をつき、わずかに微笑む。

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