異世界農業革命 – 第1話

プロローグ

 目を覚ましたとき、大河一樹の周囲には見渡す限りの荒れ果てた大地が広がっていた。先ほど遭遇した謎の怪物と、それを倒してくれた剣士らしき男とは逸れてしまい、あてもなく歩き続けた末に、ようやく小さな集落にたどり着いたのだ。そこは枯れた木々と大小の石が転がるだけの殺風景な土地で、かろうじて村の形を保ってはいるが、建物の外壁はひび割れており、通りを行き交う人々も皆疲弊した表情を浮かべている。

 その村の入り口近くで、一樹は力なく座り込んでいる老婆を見つけた。声をかけようと近づくと、その老婆がか細い声でこちらを見上げる。「おや……旅の方かい? こんな辺鄙な村まで、どうして来たんだろうねえ……」

「俺も正直、よくわかっていません。でも……すみません、ここはいったい?」

 一樹が恐る恐る尋ねると、老婆は小さく息を吐いて立ち上がろうとする。どうやら足腰がかなり弱っているらしい。慌てて手を貸すと、少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。「ここはエル・リーフ村といってね。昔はそこそこ作物が獲れたんだけど、今じゃ見ての通り、土地がすっかり痩せてしまって……。まあ、こんな寒村に用事があるってわけでもないんだろうけど、ゆっくりしていくといいよ。食べ物は少ないけどねえ。」

 その言葉が気になった。見渡せば、確かに畑らしきものはあるが、土は乾ききってひびが入っている。生えている作物は申し訳程度の細い茎ばかりで、葉が黄ばんでしおれているのが分かった。一樹は自分の研究者としての本能が刺激されるのを感じる。無人農業システムこそないが、何とかこの土地を立て直せないだろうか。そこまで思い至ったところで、腹の奥底からわき上がるやる気と同時に、ここが元の世界ではないかもしれないという思いが重くのしかかる。

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