異世界農業革命 – プロローグ

 研究室の大型ガラス窓からは、幾重にも並んだハウス栽培のドームが見下ろせた。そこには最新の自動制御システムが導入されており、土壌の水分量や養分、温度をセンサーが常にモニタリングしている。大河一樹は、研究データをまとめたタブレットを手にしながら、同僚たちに指示を送っていた。「よし、次は区画A-4の水分レベルを調整してみてくれ。作物の成長曲線を比較する必要があるから、少し高めに設定してみようか。」

「了解っす、一樹先輩。今までA-4は保守的な数値でしたけど、問題ないですよね?」若手研究員の坂井がモニターを操作しつつ問いかける。

「うん、問題ない。どうせこれはテスト区画だし、統計を取るには幅を広げた方がいいからね。今回のテーマは“異なる条件下での作物成長率の変化”だから、攻めの数値で実験しよう。」

 一樹は研究員たちを安心させるように微笑み、モニターに映る苗をじっと見つめた。その視線は真剣そのもので、農業の発展にかける情熱が滲み出ている。

 彼は子供の頃から土や植物に深い興味を持っていた。実家が小さな畑を営んでいたこともあり、肥料の作り方から種の選別方法まで手伝いながら覚えてきた。とはいえ、単に農作業が好きというだけでなく、「どうすれば人々が安心して食べられる量の作物を効率的に作れるのか」という課題に情熱を注いだ結果、大学で農学を専攻し、大手研究所の農業部門に就職したのだ。

 そして今、一樹は所内での評価も高く、次世代農業を担う若手エースとして期待を寄せられている。特に土壌改良や品種改良の研究で成果を上げ、無人農業システムのテストプロジェクトを任されるまでになった。彼の夢は、世界中の農家が活用できる環境制御技術を開発し、どんな地域でも安定して食糧を生産できる未来を実現すること。そのための第一歩が、まさに今日の実験だった。

タイトルとURLをコピーしました