夜明けのペンダント – 序章: 第2話

序章:第1話|第2話

波打ち際に残る波紋が、月明かりのように淡く揺れる夜の海辺。昼間とは打って変わって人通りのない埠頭に、私立探偵・秋山玲(あきやま れい)はひとり立っていた。手には高橋航から渡された小さな破片──錆びた金属箱の一部と、薄紅色の石の欠片。これらが、この町に再び“夜明けのペンダント”という怪異を呼び戻した証だった。

玲はポケットから懐中電灯を取り出し、波打ち際に落ちている手袋の切れ端を照らす。かすかに光る繊維には、箱の内側と同じ古風な刺繍が施されている。ペンダントがはめ込まれていた箱の蓋を覆っていた布とまったく同じ文様だ。彼はそっとそれを懐に収め、岸壁へと続く足跡をたどり始めた。

「誰が、何を目的に──」

水面に映る自分の顔を見下ろしながら、玲は呟く。足跡は数歩ごとに途切れ、また現れる。明らかに人間のものとは思えぬ不規則な間隔だ。やがて足跡は埠頭のクリートに向かい、そこで消えていた。玲は舷側に沿って上着の裾を引き上げ、甲板の下を覗き込む。錆びた鉄格子の向こう、暗闇の深みに──

「……いる」

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