夜明けのペンダント – 序章: 第1話

序章:第1話|第2話

霧が深く立ち込める夜明け前の海辺。潮騒のざわめきだけが耳に届く浜辺で、漁師の高橋航(たかはしわたる)は網を片付けながら、いつもと違う潮流に気づいていた。引き上げた網の中には何も獲れておらず、代わりに遠くから打ち寄せられた金属の箱だけが、ひんやりと彼の足に当たった。

「なんだ、これ……」

航は好奇心に駆られ、腰をかがめて砂に半分埋まった箱の端を掴んだ。錆びついた金属には古の文様らしき凹凸が並び、中央には淡紅色にきらめく宝石――伝説の「夜明けのペンダント」がはめ込まれている。彼は思わず息を呑み、懐から出した手袋をはめて箱の蓋を開いた。

「……うわ、これは……」

箱の内部には、さらに薄く透けるような光を放つペンダントだけが静かに横たわっていた。航はそっと手に取り、その重さと冷たさを確かめる。石が放つ微かな熱が、指先から体全体にまで伝わり、背筋がぞくりと震えた。

――その瞬間、遠くの防波堤で何かが光ったように見えた気がした。光は一瞬で消え、夜の闇が再び支配する。だが航の胸には確かな違和感が残っていた。

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