ライナスは両耳をふさいで膝をついた。船内の人間も甲板には出てこられず、中にこもって衝撃に耐えている。リタが装置を覗き込むと、まだかすれた数値しか出ずに困惑する。
「ノイズが大きくて……でも、パターンみたいなものを感じるわ! やっぱりこれ、ただの叫び声じゃないんじゃない?」
その様子を見ていたアレンは、強い決意に駆られるように甲板の中央へ歩み寄り、大きく息を吸い込む。そして、船の残響を使って声を張り上げた。
「わ、私たちは敵じゃない……! 攻撃する意思はないんだ……!」
言葉が通じるかどうかはわからない。しかし、古代都市の記録に“巨大な空の龍との意志疎通”を示唆するような記述があったことを思い出し、アレンは無我夢中で叫ぶ。空中に響くその声に、生物の低い振動は少しだけ弱まったかのように思える。
「……効いてる?」
リタが叫び声混じりに問いかける。ラウルは舵輪を握りしめたまま、「わからん、だが船体への衝撃が少し楽になったような気がする」と答えた。まるで相手がこちらの動きをじっくり見極めているかのようだ。
やがて、雲を裂くようにその巨大生物がアルバトロスの真横をかすめる。深紅とも紫とも言えない、虹色を帯びた鱗がはっきりと視認でき、その体表には古代の紋章のような模様が刻まれているようにも見える。まるで伝説に謳われる“天空龍”そのものだ――アレンは言葉を失い、胸が高鳴るのを感じた。
龍は一度甲板の上空を旋回し、巨大な羽ばたきでさらに強烈な風を巻き起こす。だが、明確に襲いかかってくるわけではない。その行動にはどこか試すような意図が感じられる。あるいは、これが敵意を示さずに接近した者を受け入れるための“儀式”なのだろうか。



















