運命のレシピ – 第10話

第1話 第2話 第3話 第4話 第5話
第6話 第7話 第8話 第9話

運命の開店日

 雨上がりの早朝、酒蔵を改装したレストラン〈レシピ・デスティーノ〉の黒い木戸が、初めて陽光をはね返した。風除室には苗床から掘り上げた白雪ニンジンのブーケ。キッチン奥では、リナとタケルが互いの白衣の紐を結び合い、小さく頷いた。

 11時。開店を告げる鐘が鳴ると、地元の農家や支援者が次々に席へ案内される。子どもキッチンではマミがエプロン姿の小学生たちとシフォンケーキの生地を泡立て、伊藤は奥で予約リストを確認しながら、緊張を嬉しそうに噛みしめていた。

コースの幕開け

1皿目――白雪ニンジンのエスプーマと藍いちごの泡

 ふわりと立つ甘い霧に、いちごの酸味が雪解けの風のように舞い、客席にそよぎを添える。

2皿目――里山ハーブとサーモンの瞬間燻製

 蓋を外すと檜の煙が立ちのぼり、春の山小屋を思わせる香りに歓声が上がった。

3皿目――真鯛の低温コンフィ、柚子味噌クリーム

 先日の試食会で評判を呼んだ一品。皮目を打つバーナーのパチンという音が、客の期待をさらに炙る。

4皿目――地鶏と山菜のロースト、モリーユソース

 山菜の苦味とモリーユ茸の深い旨味が、柔らかな鶏肉を抱き、皿の上に森の輪郭を描く。

 コースが進むにつれ、客席の会話は弾み、グラスを重ねる音はリズムを持って店内を巡った。

タイトルとURLをコピーしました