大空の船 – 第7章 後編

その行動を見ていたアレンも、うんと大きく手を広げてゆっくり振り回し、「危害を加えない」という意思を示そうとする。龍は一瞬、視線をこちらに向けた(ように感じられた)後、再び大きく羽ばたき、今度は高度を下げ始める。まるで、甲板から離れて離脱するかのように見えたが、途中で急旋回し、アルバトロスのすぐ横をかすめるように飛び去った。

激しい風と衝撃が甲板を襲い、クルー全員が体勢を崩しかける。甲板の道具が転がり、リタの観測装置も倒れそうになるが、ラウルとライナスが一瞬で押さえる。アレンは思わず甲板に片膝をつきながら、「も、もうおしまい……?」とつぶやく。

すると、龍が最後に低い鳴き声を響かせ、その巨大な尾が雲を裂くようにして、その向こうへと姿を消してしまった。残されたのは、荒れた風だけ。アレンたちはその場にへたり込みながら、しばし呆然とする。

「行っちゃった……よな」

ライナスが荒い息をつきながら望遠鏡を覗くが、遠くには龍の姿は見えない。リタは観測装置を確認し、「終盤に振動波がまた変化してたの。きっと……何か合図だったんじゃないかな」と息を切らして言う。アレンはそれを聞いて「合図……?」と首を傾げつつも、心の奥に込み上げる興奮を抑えきれない。

ラウルは操縦輪を両腕で抱くようにして、「攻撃されなかっただけでも大進歩だ。あれほどの存在にやられてもおかしくなかったのに、結果的に衝突は避けられた」と小さく笑う。

「そう、衝突はしなかった。むしろ……何かを試すような行動だったよね。理解してもらえたとは言えないけど、敵意だけじゃない何かを示してくれたはずだわ」

リタも同意する。まるで天空龍が「また来るがいい」とでも言わんばかりに、最後は姿を消したかのようだ。

アレンは甲板に立ち上がり、腕の埃を払いながら、雲の向こうに去った龍の方向を見つめる。

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