大空の船 – 第8章 前編

アレンは言葉を選びながら、甲板をゆっくり歩き回る。空を自由に飛べるようになった喜びを味わった一方で、紅蓮のガイウスの存在が周囲の平和を蝕んでいる現実からは目を背けられない。自分たちの船だけが安全な空を求めて逃げ回ることは可能かもしれないが、それは本当に正しい選択なのか――胸のうちで葛藤が渦巻く。

「どこかで情報を仕入れよう。大きな町か浮遊島に寄港して、空賊の最新の動向を確認しなきゃ。今のまま手探りで飛び回るのは危険すぎる」

アレンが決意を固めたように言うと、ライナスが「賛成だ」とうなずく。

「ちょうど南東方向にひとつ、それなりに商船が集まる島があるらしい。俺たちがここから一日か二日で到着できる距離だ。そこへ向かってみよう。噂話でもいい、何かしら実態がわかるはずだ」

ラウルも「わかった。じゃあエンジンと船体の状態を確認したら、すぐに進路を南東へ変えよう」と操縦輪に目を戻す。リタは「船のバランス調整は任せて。できるだけ効率良く飛べるようにする」と意気込む。

だが、そのとき不意に、低い轟音が空気を振動させて甲板を伝ってきた。

「なんだ、今の音……?」

リタが身構え、ライナスは反射的に上空を覗き込む。しかし、頭上にはただ荒れ気味の雲が広がっているだけで特に大きな影はない。風の鳴る音か雷鳴かとも思えたが、その響きはどこか機械的なリズムを帯びているようにも聞こえた。

「いやな予感がするぞ。エンジンの調子か?」

ラウルが心配そうに操縦席の計器をチェックするが、エンジンに異常値は出ていないらしい。アレンは甲板の手すりを握りしめ、「そんなに遠くないところで、何かが動いてる可能性がある」と周囲を見渡す。

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