空のどこかで雷が鳴ったのかもしれない。だが、先ほど感じた不安が、不吉な現実として具現化しようとしているような――そんな暗い直感が頭を離れない。
「アレン、どうする？ 高度を下げて隠れたほうがいいかしら」
リタが不安げに声をかけると、アレンは迷いつつも首を横に振る。
「わからない。もし何かが起きてるなら、むしろ確認したい。勢力を拡大した空賊の船団が近くを通る音かもしれないからな」
ラウルとライナスも視線を交わし、「危険だけど情報は必要だ。高度を少し下げて雲の下あたりで偵察するか？」と提案する。アレンは考え、やや緊張した面持ちで「そうしよう」と決断した。
アルバトロスはゆっくりと舵を切り、南東方向へ進みながら高度を落とし始める。濃い雲の層に近づくと視界が悪くなり、湿った空気が頬を打つ。甲板にはささやかな霧のような水滴がまとわりつき、クルーたちはさらに警戒を強める。エンジンの出力を抑えつつ、船をできるだけ静かに移動させるつもりだ。
どれほど進んだだろうか、雲の下端に出ると遠方に大きなシルエットが見えてきた。暗い雲に覆われて詳細まではわからないが、どう見ても普通の商船とは違う大きさだ。形状や配置されたマストのような突起を見れば、過去に空賊の船団を目撃したときの記憶が蘇る。
「やばいな……たぶん空賊船のひとつだろう。しかも小型艇じゃなさそうだ」
ライナスの望遠鏡からそういった声が震え混じりに出る。ラウルは舵を固定し、「ここで遭遇したら相手が複数隻の場合は一巻の終わりだ。微妙に距離を保ちながら様子を見よう」と提案する。アレンも同意し、「攻撃されない距離を維持してくれ」とラウルに頼む。
