大空の船 – 第8章 前編

「最近、どうにも胸騒ぎがする。昔、軍の哨戒任務でこういう感覚になったことがあるんだ。視界には何も怪しいものは映ってないが、どこかで嫌な気配を感じる……まるで嵐の前触れのようにな」

ラウルの言葉は、アレンが抱く漠然とした不安を言い当てているように思えた。彼が視線を伸ばす先にはただ曇り空が広がり、うねる風が雲を引きずるように流している。

「そうか……俺もなんとなく気になるんだ。紅蓮のガイウスについての情報が途切れてるのも逆に不気味だし、奴らが引きこもって大人しくしてるとは思えない。むしろ大きな動きを準備している可能性がある」

アレンの答えにラウルは同意するようにうなずき、「空賊の連中は、手っ取り早いところで空の交易ルートを奪うことを狙う。浮遊島や町を襲って物資や技術を奪い、勢力を増しているらしい。そんな話を複数の商船から聞いた」と低く声を落とす。

その会話を聞きつけて、ライナスが舳先からやってくる。いつも陽気な表情の彼も、どこか険しい面持ちだ。

「俺も気配が怪しいと思うんだ。ここ数日、いくつかの船乗りとすれ違ったけど、彼らの話だと“紅蓮のガイウスの空賊団が再び大規模な略奪を計画している”って噂が流れているらしい。実際にどの空域で動いているかまでは誰も正確には掴んでないが、どうやら西の方にある大きな浮遊島をすでに支配しているって話もあったよ」

アレンはそれを聞き、思わず息を詰める。西の浮遊島といえば、比較的人口が多く、空を渡る商船の拠点としても賑わう場所だ。もしそこが空賊の手に落ちたなら、交易ルートが封鎖され、多くの人が物資を得られなくなる危機に陥る。

「もしガイウスがそこを拠点にさらに勢力を拡大すれば、俺たちが動くにしても一筋縄ではいかないな。アルバトロスが少しパワーアップした程度じゃ、奴らの大艦隊と正面衝突は避けるべきだろう」

ラウルが冷静に分析する。リタは思案げに「でも、放っておけば空全体の交易や生活が危機にさらされる。私たちがそこまで背負い込む義務はないのかもしれないけど……」と歯がゆそうに呟く。

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