大空の船 – 最終章 前編

リタは空賊の要塞を示した簡易マップを広げ、指先で何度も場所をなぞっている。このマップは、かつて紅蓮のガイウスの配下から逃げ延びたという船乗りから聞いた話をもとに、ライナスが推測で作った概略図だ。城壁のように高い外壁と多層構造の甲板があり、下部には大型船が出入りするゲートがあるという。アレンもその図に目を落としながら、ため息をつく。

「砲台が並ぶ上層から行くのは自殺行為だ。となると、やはり下層の裏側にある搬入口しかない。けど、当然そこも警戒が厳重だろうな」

「潜入しちまえば、何か手立てはあるかもしれん。要塞のど真ん中で暴れてもいいが、その前に船を格納できるスペースを確保できるかが問題だ」

ライナスが腕組みしながら言う。整備士であるリタが補足するように言葉をつなげる。

「船を降りて潜入する以上、アルバトロスを安全な場所に置いておかないと、戻ってきたときに燃やされてたら目も当てられないわ。最悪の場合、船を捨ててでもガイウスを止めるのか……」

その一言に、アレンは強い動揺を見せた。自分の夢の結晶である“アルバトロス”を捨てるなど、想像もしたくない。しかし、ここへ来て世界の空を守るために犠牲を伴う選択を迫られる可能性は十分にある。

「……わかった。まずは要塞の下部へ接近して、搬入口周辺に守りの手薄な区画がないか探そう。見つけたら、一気に船を差し込んで強行突破し、中から要塞のコアを叩くんだ」

アレンが覚悟を決めた口調で言うと、ラウルやリタ、ライナスも厳しい表情で頷く。作戦は綱渡りだが、ほかに有効な手立ても浮かばない。紅蓮のガイウスがこの要塞を完全に完成させる前に、急襲をかけるしかないのだ。

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