静寂に包まれた村に住む若い女性、綾乃は、地元の小さな図書館で日々を過ごしていた。村の歴史や伝説に興味を持つ彼女にとって、図書館は夢のような場所だった。ある日、長い間誰も手を触れていない古びた本を開くと、その中から奇怪な図面が現れた。それは村の裏山に位置するとされる「影の図書館」の地図だった。村人たちがその伝説を恐れ、死守する場所であると噂されていた。
興味を惹かれた綾乃は、同じ図書館で働く同僚の信彦にその話を持ちかけた。驚きと好奇心に駆られた信彦は、綾乃と共にその場所を探しに行くことを決意した。二人は意気揚々と村の裏山へと向かったが、そこは一歩入ると違う世界に足を踏み入れるような異様な雰囲気が漂っていた。
山に進むにつれ、周囲は静まり返り、当たり前だったはずの鳥のさえずりさえ消え失せた。重苦しい空気が二人を包み、まるで見えない何かに見張られているような感覚に襲われていた。
やがて、双子の木に囲まれた古びた図書館が現れた。そこは蔦に覆われ、まるで長い間忘れ去られていたかのような無気力感を漂わせていた。室内に足を踏み入れた瞬間、異様な冷気が二人の体を包みこんだ。耳障りな囁きが響き、綾乃は思わず信彦の手を強く握り締めた。
二人は本棚に並ぶ古本を見つめ、手に取ってみることにした。その中の一冊を開くと、目の前に広がったのは村民の名前と、その罪の記録だった。恐ろしさが瞬時に彼らの心を襲い、信彦は目を見開いた。「これって、私たちのことも書かれているのかもしれない……。」
綾乃もその言葉に驚きつつ、さらに本をめくった。すると、そこに自らの名前が現れた。「綾乃、図書館の影に囚われる」とだけ記されていた。その瞬間、冷たい手に絞めつけられるような感覚が走り、恐怖が二人を襲った。彼らは息を呑み、急いで出口に向かうも、扉は不気味に閉ざされていた。
彼らは恐怖を感じながらも、脱出を試みたが、背後から影が迫っているのを感じ、心臓が高鳴るのを抑えられなかった。目の前に広がる暗闇の奥から、囁くような声が響きわたっていた。「私たちを、解放してくれ。」
しかし、その声は誰の声音でもなく、村の一部が発する音のように感じられた。信彦は「このままではいけない。何か手がかりが必要だ。」と口にした。綾乃は同意し、古い本のページを必死にめくり続けた。すると、最後のページに一行の言葉が書かれていた。「過去を知れ、真実を受け入れよ。」
綾乃は思い出した。村の古い伝説に出てくる、罪を犯した者たちの物語を。誰もが知っているけれど、語られずに過ぎ去っていった痛み。村民の隠した歴史と、魔がかったこの図書館の秘密を解き明かすことができれば、自らの運命を変える道が開けるのではないかと考えた。
「信彦、私たちの村が持っているこの呪いを解くためには、過去を直視しなければならない。」
二人はお互いを見つめ合い、決意を固めた。彼らはもう逃げるわけにはいかない。この恐ろしい影の図書館から、真実を見つけ出すために、自らの過去を追い求める旅が始まった。心の底から湧き上がる恐れに打ち勝つため、綾乃は過去の暗闇に立ち向かっていくことを決心した。これが彼女たちの運命を変えるチャンスだと信じて。
やがて、図書館の恐怖が迫りくる中で、彼らは村に伝わる伝説の一部に触れてゆく。村々で語り継がれてきた話、長い間忘れ去られた悲しみの物語が蘇る。綾乃は、影が何を欲し求めているのか、その正体を知る必要があった。影は単なる恐怖ではなく、村の歴史、過去の罪を象徴しているのかもしれないから。
そして、影の図書館からの試練は、彼女を自身の心の奥にある真実へと導いていくのだった。綾乃は理解し始めた。影は贖罪を求めているのだと。彼女自身の過去に手を伸ばし、自分を取り戻すために戦わなければならない。たとえ命を懸けることになっても、彼女はその決意を固めた。
図書館の中での暗闇が深まる中、綾乃と信彦は決してあきらめず生き延びるために互いに支え合いながら、影との対峙に向かって進んでいった。果たして綾乃は、自らの運命を切り開くことができるのか、それとも影の手に飲み込まれてしまうのか。村の呪いが彼女たちに迫る中、壮絶な運命の選択が待っていた。彼女たちの結末は、まだ見えない。ただ一つ確かなことは、彼らの選択が村全体に影響を及ぼすことだろう。
四方から迫る影の中で、綾乃は自らの内なる声に耳を傾け、真実を見つけ出すのだった。