深海の叫び – 序章:深海への誘い 前編

「皆さん、これから詳細な探査計画を立てます。まずは、現場の映像とデータをさらに精査し、できるだけ多くの情報を収集しましょう。」斎藤は厳しい表情で指示を出した。

ローレンスは薄ら笑いを浮かべながらも、どこか狂信的な眼差しで答える。「それもそのうち。私にとっては、この謎こそが、失われた古代の叡智への扉です。解明する価値は絶大だと考えています。」

中村は、少し険しい口調で言葉を重ねた。「私たちは、科学としての探求だけでなく、互いの安全を最優先にすべきです。過去の事例もありますから、あまりに突拍子もない理論には、慎重にならざるをえません。」

その時、通信機器から急に強い信号が入り、船内に微かな共鳴音が鳴り響いた。探査艇のモニターには、今までにない高解像度の映像が次々と映し出され、そこには底知れぬ暗闇に浮かぶ奇妙な建造物の輪郭が、淡く、しかし確実に姿を現していた。

「な……なにだ……!」と、技術担当の一人が声を上げた。映像には、ただ単に石造りの廃墟ではなく、複雑な幾何学模様が刻まれた彫刻や、未知の記号のようなものが浮かび上がっており、それらは全て、見る者に畏怖と不安を与える力を持っていた。

斎藤はすぐにその映像を拡大し、詳細な調査を試みた。彼の心は、科学としての合理性と、底知れぬ未知への好奇心との間で激しく引き裂かれていくようだった。

「これは……単なる自然現象では説明がつかない。どうやら、あの構造物は、かつて人間が手を加えたものではないかもしれません。」彼は、パソコンのキーボードを打つ手が、普段よりも震えていることに気づきながらも、冷静な分析を続けた。

船内の他のメンバーも、各々の位置で同じ映像に釘付けになっていた。沈黙が支配する中、突然、ローレンスが静かに言葉を発した。「これは、まるで古代の神殿の入り口のようです。忘れ去られた神々に、再び捧げられた供物のように……」

中村は、ローレンスの発言に眉をひそめながらも、内心でその狂気じみた表現に戸惑いを隠せなかった。「博士、その表現はあまりにも直情的です。私たちは冷静に事実だけを見極めるべきです。」

ローレンスは微笑みながらも、どこか奥深い情熱を込めて答えた。「確かに、科学的な検証は必要です。しかし、時には理性だけでは捉えきれないものが存在するのです。古代の記録、神話、そして伝説の中に、我々には想像もつかない真実が隠されているのですから。」

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