その時、突然、探査艇の警報灯が赤く点滅し、室内に冷たい警告音が鳴り響いた。全員が一斉に驚きの声を上げる。斎藤がすぐさまコンソールに駆け寄り、緊急データを確認する。「何が起こっているんだ……？ 通信回線に異常が出ている。もしかして、外部からの干渉か……」
ローレンスは、画面に映る異常信号に顔を近づけながら、興奮とともに呟いた。「これもまた、深海が我々に何かを訴えかけているのかもしれません。まるで、封じ込められた古の叫びが、再び響き渡ろうとしているような……」
中村は、眉をひそめながらも落ち着いた口調で指示を出す。「皆、落ち着いて。緊急事態の原因を早急に特定し、可能ならば対策を講じなければなりません。斎藤さん、状況をもう一度説明してください。」
斎藤は、モニターに表示された数値と映像データを確認しながら、冷静さを取り戻そうと努める。「現在、通信回線には不規則なノイズが発生しており、特定の周波数帯からは断続的に奇妙な信号が受信されています。これらの信号は、海底の遥か奥深くから発信されているように見えますが……」
室内に張り詰めた緊張感の中で、誰もがその言葉に耳を傾けた。斎藤の語る、遥か彼方の深海からの謎の信号は、まさにこの場所に至るまでの一連の不可解な現象の起点であるかのように感じられた。
「私たちは、今この瞬間に、海の底深くからの何かに引き寄せられている。科学者としての誇りと、失われたものへの追憶が交錯する中で、我々は前に進まねばならない。」斎藤は、静かな決意を新たにしながら、改めて周囲を見渡し、仲間たちに向けて呟いた。
その声は、薄暗いブリッジの中に確固たる響きを与え、互いに支え合う覚悟を醸成させるかのようであった。海面下、未知の領域へと足を踏み入れる準備は整いつつあった。
そして、その瞬間、探査艇はゆっくりと、しかし確実に、暗闇の中へと進み出した。周囲の海水は、まるで時の流れすらも封じ込めたかのように静かで、しかしどこか不穏な輝きを放っていた。
船内には、さらなるデータの解析と、未知へ対する一抹の恐怖、そして希望とが入り混じった複雑な感情が満ちていた。斎藤、中村、ローレンス、そしてこのミッションに身を投じた全ての者たちは、それぞれが自らの内面に秘めた思いと向き合いながら、これから待ち受ける暗黒の海へと、無言の決意を胸に進んでいった。
序章：前編｜後編
