深海の叫び – 序章:深海への誘い 前編

「皆さん、これほどまでに精密な映像は見たことがありません。まさか、あの遺跡は……古代の神々が祀られていた、禁断の場所ではないでしょうか。」

ローレンスの言葉に、室内の空気は一瞬にして変わった。斎藤は眉をひそめながらも、冷静さを保とうと努めたが、内心では彼の示唆が科学的事実を超えた何かを感じさせるのを否応なく受け入れかけていた。

「古代神話……ですか?」斎藤は、データ解析のソフトウェアを見つめながら言った。「理論的にはあり得るかもしれませんが、今はまず、客観的な証拠を集めるべきです。」

中村は、静かな声で付け加える。「私たちは、未知への探求心も持っていますが、安全と確かな判断が大切です。これが実際にどんなものなのか、慎重に調査しましょう。」

その会話の間、探査艇の船内ではほのかな異変が感じられていた。通信機器からは、かすかなノイズが立て続けに流れ、まるで遠い昔からの警告のような低いうなり声がバックグラウンドに忍び寄る。船内の照明が一瞬揺らいだ瞬間、全員が一斉に固唾を飲んでその音に耳を傾けた。

「……あれは、一体何でしょう?」誰かが控えめな声で尋ね、やがて全員がその答えを求めるような視線で船外を見つめる。

斎藤は心の中で、この瞬間がただの不具合ではなく、何か大いなる存在からの合図であるかのような感覚に襲われた。彼は、過去の海難事故で感じた絶望と、家族を失ったあの夜の記憶を思い出さずにはいられなかった。しかし、それでも彼は自らを奮い立たせ、科学者としての使命感が内面に力を与えるのを感じた。

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