深海の叫び – 序章:深海への誘い 前編

斎藤は、自分自身との内面の闘いを感じながら、再び映像に目をやった。彼の心の奥では、かつて家族を失ったあの暗い夜が蘇り、誰にも語ることのできない痛みとともに、彼を突き動かす一種の原動力ともなっていた。そして今、この海の奥深くに、過去と未来が交錯する「招かれざる深淵」が確かに存在しているのではないかという疑念が、彼の心を侵食し始めていた。

「この映像が示すもの……我々は、これまでの常識を覆す発見に直面しているのかもしれません。」斎藤は、重い口調で仲間たちに語りかけた。「もちろん、全てを鵜呑みにするわけにはいきませんが、この現象には科学的な謎以上に、心を揺さぶる何かがあると感じます。」

一方で、中村は、斎藤の言葉に対して静かに同意するように首を振った。「あなたの分析は確かに鋭い。でも、私たちは何よりもまず、自分たちの安全を守ることを最優先にしなければなりません。未知なるものに挑むのは、常にリスクが伴いますから。」

ローレンスは、その会話を聞きながら、ふと窓の外を見ると、月明かりが波間に儚く揺れる様子に目を奪われた。「海は、我々に多くの秘密を隠しています。そして、今日、我々はその一端に触れたのです。私には、この先にある真実が、あまりにも壮大で神聖なものだという予感がします。」

沈黙の中、各々が自身の思いに耽っていた。船内は、まるで一枚の重い幕に包まれたかのように、ただ冷たい空気が流れ込んでいた。斎藤は再びモニターに目をやり、数字やグラフ、そして映像の断片を丹念に解析し続けた。彼の頭の中には、科学的な好奇心と、過去の痛ましい記憶とが複雑に絡み合い、一筋の光を求めるかのような激しい情熱が燃えていた。

「資料は十分に蓄積できた。次のステップとして、この遺跡の起源についてさらに深く掘り下げる必要があります。」斎藤は、手元のノートに鋭い筆致でメモを取りながら、静かに口にした。

その言葉に、ローレンスが低い声で応じる。「ああ、そしてこの映像は我々に、ただの古代の遺構ではなく、何かもっと大きな目的があったことを告げているようです。見た目はただの石の塊でも、その裏には、計り知れない秘密が眠っているのです。」

中村は、深いため息をつきながらも、その場にいる全員の表情を見渡した。彼女の瞳には、不安と共に、仲間としての責任感が滲んでいた。「確かに、私たちは今、未知の扉の前に立っています。これから何が待ち受けているのか、誰にも分からない。でも、一つだけ確かなのは、我々はこの先を切り拓くために、互いに支え合わなくてはならないということです。」

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