深海の叫び – 第2章:暗闇の影 前編

「確かに、斎藤さん」とローレンスは答え、複数のグラフとチャートをモニターに映し出しながら説明を始めた。「こちらをご覧ください。波形は周期性を持っており、そのパターンはまるで、遠い昔に刻まれた呪文の一節のようです。心理状態の乱れと相関している点も見逃せません。データから推測するに、あの物品が放つ微弱なエネルギーが、接触した者の感情や思考に影響を及ぼしているように思われます。」

その言葉に、船内はしばし静まり返った。スタッフの間で交わされる低いざわめきの中、誰もが耳を澄ませ、数値とグラフに集中していた。中村は、静かにノートにメモを取りながら、「こうした現象が、もし本当に心の奥底にまで作用しているとすれば…」と呟くと、すぐに自らを奮い立たせるかのように「私たちは、冷静さを失ってはなりません。感情に流されることは、探査隊全体の危険を増大させるだけです」と、改めて皆に向けて注意を促した。

その後、斎藤は意を決して、全員に向けた会議を始めた。船内のミーティングルームに集まった隊員たちは、以前にも増して険しい表情で互いの顔を見つめ、各々の内面に潜む不安を隠しきれずにいた。「昨夜から、我々が接触した物品の影響は、単なる偶然や機器の不具合ではなく、明らかに私たちの精神状態に影響を与えていると感じられる」と斎藤は重い口調で語った。

「確かに」と中村が静かに答えた。「昨晩、休憩中に私自身も奇妙な幻覚を見たような気がしたんです。何かが視界の隅に映り、思わず目を疑うほどの光景でした。今後は、個々の精神状態も定期的にモニタリングする必要があると考えます。」

ローレンスは、さらに加えて言った。「私の研究では、古代の儀式や封印に関連する物質は、接触者の内面に潜む抑圧された恐怖や罪悪感を増幅させる効果があると言われています。もしこの現象が事実であれば、我々は単なる物理的探査者ではなく、心理的にも極限状態に晒されることになるかもしれません。」

斎藤は静かに頷きながら、「われわれの任務は、ただデータを収集するだけでなく、この現象が探査隊全体にどのような影響を及ぼしているのか、その実態を解明することにもある。今後、個々の心のケアと、異常反応が現れた場合の対策を、早急に策定する必要がある」と強調した。

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