美咲は17歳の元気な高校生。名門の女子高に通い、いつも明るく、周囲の人々からは愛されていた。しかし、彼女の心の内には、言葉にできないような空虚感が常に存在していた。友人に恵まれ、毎日笑顔を絶やさない彼女だが、何か大切なものを失った感覚が拭えずにいた。
ある日の放課後、彼女は課題に行き詰って古びた図書室へ逃げ込んだ。その時、不意に目に留まった一冊の本があった。表紙は色あせており、タイトルは「愛の呪い」とだけ書かれていた。好奇心が勝り、その本を手に取ってページをめくると、そこには人間の心の隙間を埋めるための奇妙な儀式が記されていた。
美咲は、心の隙間を埋める方法があるのだと期待に胸を膨らませ、儀式を実行する決意をした。それから、彼女は指定された場所に不思議なアイテムを集め、夜中に儀式を行った。すると、彼女の眼前に現れたのは、影のような存在、愛の精霊だった。それは彼女を優しく包み込み、心地よい愛情を注いでくれた。初めて経験する温かな感情に美咲は感動し、彼女の心は精霊への愛で満たされていく。
最初は、精霊の存在が心の隙間を埋めてくれていると感じ、幸せな日々が続いた。だが、次第に精霊は彼女に対して独占的な愛情を強要するようになり、美咲は普段の生活に支障をきたすようになっていく。友達との約束をドタキャンし、家族との会話も億劫になり、少しずつ孤独になっていった。
周囲の友人たちは心配し、彼女を助けようとしたが、美咲は愛の精霊への依存心が強くなり、誰にも助けを求めることを拒んだ。友人たちは次第に彼女から遠ざかり、まるで美咲が周囲に存在しないかのように扱われるようになった。申し訳ない気持ちがあっても、彼女には精霊と結びついている心の安らぎが何よりも大切だった。
愛の精霊と共に過ごすうちに、彼女は次第に感情を失っていった。今まで好きだったことや夢のことすら、精霊によって奪われていくかのようだった。学業にも影響が出始め、美咲は焦りを感じるようになる。「こんなはずじゃなかった」心のどこかで思いながらも、その思いは薄れ、精霊の存在が全てになっていった。
時が経つにつれ、美咲はその依存を深めていき、愛の精霊の存在無しでは生きられない体になっていた。それでも彼女の心の隙間は埋まることはなく、むしろ深まっていくばかりだった。鏡で映した自分の顔には、かつての明るい笑顔が消えていたことにようやく気がついた。振り返る友人たちの顔が思い出され、彼女は動揺した。同時に、すでにそれらの過去の思い出は脳裏に美しいものとして残っていなかった。
ある深夜、美咲は愛の精霊と向き合い、心の隙間を再度埋めてもらおうとした。しかし、精霊は彼女の願いを冷たく拒絶した。「あなたは私に依存しすぎた。私はあなたを愛することはできない。愛するためには、全てを与えなければならない。」そう告げられたとき、美咲の胸に重苦しい絶望が押し寄せた。すでに失ったものは、戻らないのだ。
絶望のあまり、心を閉ざした美咲はもう救いを求めることができず、ただただ精霊の求めに従った。次第に、愛の精霊は彼女を完全に支配し、彼女の存在を消し去ろうとしていた。美咲は初めて、自分が愛の精霊に自分自身を捧げることで周囲の人々を傷つけていたと悟った。
だが、全ては手遅れだった。彼女はすでに孤独に慣れ、その虚しさに気づく余裕さえ持てなかった。友人たちとの絆を破壊した代償として、精霊が自らの命の全てを吸い取り、最後には彼女の存在を奪うことだけが、愛の精霊にとっての唯一の幸せだと告げた。
悪夢のような結末を迎え、彼女は愛の精霊の手に引きずられ、何もない深い闇の中での一人きりの存在に、最期を迎えることとなった。
彼女は、若くして愛を求めたがゆえに、すべてを失ったのだった。