夜のバス停 – 第1話

日常の中の非日常

都会の喧騒を背にしたバス停は、夜になるとひときわ静寂が際立つ。ネオンの灯りがちらつく中、シュウは長い一日を終えてそこに立っていた。スーツのジャケットのボタンを外し、ネクタイを緩め、彼は深いため息をついた。会社のプロジェクトは山積みで、彼の心は疲労で重く沈んでいた。

いつものバスを待つ間、彼はスマートフォンをいじりながら過ごすのが日課だった。しかし、この日は何かが違った。バス停の端に、学生服を着た少女がひとりで立っていた。彼女はバッグを抱え、遠くを見つめていた。シュウは彼女が誰かを待っているのか、それともバスを待っているのか判断がつかなかった。

何日かの間、シュウは彼女を遠くから見ていただけだった。しかし、彼女が毎晩同じ時間にバス停にいることに気づいたとき、彼の好奇心は勝ってしまった。ある夜、彼は彼女の隣に歩み寄り、静かに声をかけた。「大丈夫?」

少女はびっくりしたように彼を見上げたが、すぐに平静を取り戻した。「うん、大丈夫だよ。ただ、バスを待っているだけだから。」

会話はそこで途切れたが、翌日、彼女はシュウに名前を教えてくれた。彼女の名前はユイで、中学三年生だった。シュウは彼女に自分のことを話した。アラフォーで、ある中堅企業のサラリーマンであること、日々のルーティンに飲み込まれてしまっていること。

ユイは家出をしているとは言わなかったが、その言葉を隠しているような瞳が物語っていた。シュウは詮索することなく、彼女の話を聞いた。彼らはお互いの存在に慣れ、たまには笑いを交わすようになった。

会話の中で、シュウはユイに夢を聞いた。彼女は画家になりたいと言った。彼女の目は輝き、彼女の夢への情熱が伝わってきた。シュウは自分がいつからか夢を見ることをやめてしまったことに気づいた。ユイとの会話は彼にとって新鮮な刺激だった。彼女の純粋な夢を聞くことで、彼の中にもかつての情熱がよみがえってきた。

彼らの関係は、シュウにとって日常の中の非日常となっていった。バスを待つその時間だけは、彼は自分の重荷を少し下ろすことができた。ユイとの対話は彼に小さな逃避と安らぎを与えてくれた。そして、いつしか彼は、その時間を心待ちにするようになっていた。