和菓子の灯がともるとき – 12月28日 前編

12月26日 前編後編 12月27日 前編後編

朝の静寂を破るように、由香は一人きりで家の裏手にある店のドアを開けた。外から見れば、まだシャッターが閉まったままの「夏目堂」。けれど、鍵を開けて中に足を踏み入れると、冷えた空気の中でうっすらと埃をかぶった道具や器具の数々が、まるで長い眠りから目覚めるのを待っているかのように並んでいた。父が倒れる前まで、当たり前のように回っていた餡練り機、綺麗に整頓されていたはずの和菓子の型、そして今は使われることのない業務用のオーブン。足元に視線を落とすと、粉状の埃がほのかに積もっており、人の気配がいかに遠ざかっていたかを物語っている。

「せめて掃除くらいは…」

そうつぶやいて、由香は雑巾を水に浸して固く絞った。ここ数日、父の容態を気遣うあまり気分が沈みがちだったが、こうして店に入ると不思議と心が動くのを感じる。和菓子の道具たちは、どれも父が大事に使っていたものばかりだ。とりわけ餡練り機は、父の背中とともに思い出が詰まっている。夜遅くまでその機械の前に立ち続け、時々「ほら、味見してみろ」と由香に声をかけてくれた父の姿を思い出すと、胸の奥が暖かいものに包まれるような気がした。

「やっぱり、ここはお父さんの大切な場所なんだなあ…」

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