和菓子の灯がともるとき – 12月28日 後編

「考えること、いっぱいあるんだよね。お父さんのこともあるし、お母さんの負担も気になるし、でも東京の仕事もあるし…」

ぽつりと口に出すと、亮は「年末年始が終わっても、しばらくここにいたらどう? ある程度在宅でもできる仕事とかないの?」と提案する。彼の言葉に、由香は一瞬目を見開き、「そうね、最近はリモートワークも増えてきたし、上司に相談することもできなくはないかも…」と呟く。だがすぐに、「でも、そんなに都合よくいくかな」と懐疑的な思いも胸に浮かぶ。

亮は「まあ、急に全部を変えろってわけじゃないけどさ。せっかく地元に戻ってきたのに、すぐにまた離れちゃうのはもったいないんじゃないかな、って思うんだよ」と柔らかい笑顔を向ける。その言葉に対して、由香はどう答えればいいのか分からず、曖昧に「考えてみる」と言うにとどまった。実際、都会での生活も嫌いではない。やりがいのある仕事で自分の力を試せるという魅力もある。ただ、父が倒れ、母が一人で店と家族のことを抱えている状況で、それが本当に最善なのか――その葛藤が自分の胸の奥でくすぶり続けている。

日が暮れて寒さが増してきた店内から、二人は道具を片づけて外に出る。シャッターを再び閉めると、昼間よりも少しだけ重苦しくない音がしたように感じられた。埃を取り除かれた空気のせいだろうか、店に宿る気配が、少しだけ活気づいてきたように思えてならない。由香は鍵をかけながら、「お父さんが元気になったら、もう一度ここで和菓子を作ってほしい」と心から願う。ほんの小さな一歩かもしれないが、店が再び動き出すために必要な準備をしている気がして、胸が高鳴った。

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