和菓子の灯がともるとき – 12月28日 後編

家路につく道すがら、亮に「今日は本当にありがとう」と何度もお礼を言うと、亮は「俺も久しぶりに店の中に入れて、懐かしかったよ。おじさんが使ってた道具を見るだけで、なんかワクワクするよな」と笑う。由香はその言葉を聞いて、「そうだね、私も小さい頃の思い出が蘇ってきて、頑張りたいって気持ちになった」と笑顔で返した。ふと、昔のように無邪気な会話ができる自分と亮の姿が懐かしく感じられ、少しだけ気持ちが軽くなったような気がする。

しかし、その背後では相変わらず都会に戻らなければならないという現実が大きく横たわっているのも事実だった。掃除を終えてすがすがしい達成感を味わいながらも、由香の頭の片隅には仕事のことや父の回復のこと、母の抱える不安など、さまざまな要素が絡み合い、はっきりとした結論が出せないまま夜を迎えようとしていた。店のシャッターを見送りながら、由香はぼんやりと、「再開するには何が必要なのだろう。私にできることは、どこまでなんだろう」と考えていた。掃除を終えたはずの空気がまだ重く感じるのは、決めなければならないことが山積みだからかもしれない。

そのまま自宅の灯りを目指し、足を進める。由香の心には、小さな変化の兆しと大きな不安とがないまぜになっていた。けれど、朝に比べると、少しだけ前に進んだ実感がある。「いつか父がまた店に立ち、お母さんが心から笑って、お客さんが和菓子を手に楽しそうに帰っていく光景を取り戻したい」――そんな強い思いが、埃を払い落とした店内のように、彼女の中で静かに息づき始めていた。

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