和菓子の灯がともるとき – 12月28日 後編

三人で食事を囲む時間は、それだけで心が暖まる。久しぶりににぎやかな雰囲気を感じながら、由香は内心で「こんな何気ない時間こそが、父が大切にしていたのかもしれない」と思う。父は商売をするうえで、お客さんとのコミュニケーションをとても重視していた。店先で雑談を交わすことが、そのまま地域の絆を深めることになると信じていたのだ。

食事を終えて母が帰ったあとも、由香と亮は再び雑巾を持って作業を続ける。見違えるほどきれいになった店内を見渡して、二人で「いやあ、けっこう頑張ったね」と声を合わせて笑うと、外からは西日が射し込んできて、時間が思ったより過ぎていることに気づく。

「こんなに掃除したの何年ぶりだろう。やっぱり人の手が入ると違うね。これでお父さんが戻ってきたら喜んでくれるかな」と由香が言うと、亮は「絶対喜ぶって。あの人、細かいところに気づくじゃん? 棚の隅っこまで掃除されてるのを見たら、すぐに『いい仕事するなあ』って褒めるんじゃない?」と返す。その言葉を聞いて、由香は少し照れくさくなる。

そんな明るい空気の中でも、ふと都会での仕事のことを思い出すと、由香は胸が重くなる。いずれ年末年始の休暇が終われば、会社に戻らなくてはならない。父の店をずっと手伝いたいと思っても、現実には仕事を休職するわけにはいかない。いっそ地元に戻ってしまうという選択肢もあるが、これまで積み重ねてきたキャリアを捨てるのは勇気がいる。

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