和菓子の灯がともるとき – 01月03日 前編

「まあ、すぐにフル稼働はできないだろうけど、少しずつ店に立って、お客さんと話したり、餡を練ったりできたらいいと思ってる。まだ腰が据わらないくらい身体は弱ってるけど、家にいるときも、あの道具やレシピノートを眺めてると早く何か作りたくなってね。病院の先生に聞いたら、『無理をしなければリハビリになる』って言うし、段階的になら問題ないと」

由香は、その言葉に胸を打たれた。ずっと「店は無理しなくてもいい」「由香の人生を大切にしてくれ」と言ってきた父が、自分から再開を持ち出したのだ。その意志を尊重したい気持ちと、父の身体を思って止めたい気持ちがせめぎ合うが、父の目に宿るやる気を見れば、「反対はできない」と思えた。祥子も同じように感じたのだろう、少し驚いた様子ながら「あなたがそこまで言うなら、私もできる限り手伝うわ。お客さんだって、待ってくれてるものね」と柔らかくうなずいた。

朝食を終えた後、由香はリビングで父と母を前に、自分の考えを口にする。

「実は、私もそろそろ東京に戻らなきゃいけないんだけど、休みをやりくりして、定期的に帰ってこようと思ってるの。仕事も在宅でできる部分が増えてきたし、上司に相談すればリモートワークの範囲を広げられるかもしれない。それで、もしお父さんが店に少しずつ立つなら、そのサポートもしたいなって」

父は少し目を見開き、「そこまでしなくても……」と言いかけるが、由香は首を横に振った。

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