「ここまでとは……」
彼の胸に、妹を失ったあの日の痛みがよみがえる。真実を追う理由は、呪いの解明だけではない。再び誰かが理不尽に命を奪われる前に、歴史の闇を照らし出す使命があった。
書庫を後にした玲は、その足で町長の祖母、澤田佳苗(さわだ かなえ)宅を訪れる。古い蔵を兼ねた平屋の玄関をノックすると、静かな返事とともに引き戸が開いた。佳苗は白髪を後ろでまとめ、和装に割烹着を羽織っている。
「佳苗さん、お時間をいただきありがとうございます。あなたが当時、松永家で仕えていたと聞きました」
佳苗はしわがれ声で頷き、客間へ招き入れた。畳の縁には、小さく「松永家御用宿」と刺繍された座布団が並ぶ。
「もうあれから八十年……私の話が何の助けになるか分かりませんが」
玲は深くお辞儀をし、机の上に古文書と古写真を広げる。
「こちらの古文書と照らし合わせたいのです。夜明けの儀式では、地下室に赤いロウソクを数本並べ、生贄の名を書いた羊皮紙を祭壇に捧げたとあります。佳苗さんは、その夜何を見聞きされましたか?」
佳苗の視線は遠くを見つめるように揺れた。
「私はメイドとして準備に追われておりました。あの日、深夜に不協和音のような低い囁きが聞こえ──『血を糧に新たな光を』という文句が、何度も耳に残りました」
言葉を選びながら続ける。



















