異世界農業革命 – プロローグ

 深く考える余裕もないまま、一樹は必死で地面に伏せる。男の剣が怪物めがけて鋭い弧を描き、怪物は鋭い悲鳴をあげながら大きくのけぞった。一呼吸置いて怪物が地面に崩れ落ちると、男は額の汗を拭いながら一樹の方へ振り返った。「危なかったな。見たところ、おまえは旅の人か? こんな荒野で何をしてるんだ?」

 一樹はまったく状況を理解できないまま、地面に両手をついて呆然としたままだった。混乱が渦巻く頭の中で、先ほどまでの研究所の光景と、今ここで起こっている信じがたい出来事が交錯する。爆発事故で命を落としかけたはずの自分が、いつの間にかまるで異世界のような場所に来ているという現実。どこから話を始めればいいのか、どうやって答えればいいのか、何も思いつかない。

 しかしこの場所には、自分の知っていた科学や常識では説明のつかないことばかりがある。遠くに広がる草原、そして奇妙な怪物、何もかもがこれまでの世界とは違う。男の剣先や鎧は明らかに手作業で作られた風合いをしており、それはまるでファンタジー世界の一幕のようだ。一樹は震える唇を噛み締め、必死に状況を飲み込もうとする。男の問いに答えなければ、先に進めない。

「俺は……たぶん……」

 一樹が何とか口を開こうとした、その刹那、遠くで別の叫び声が響いた。どうやらこの辺りには、先ほどの怪物と同種の生き物がうろついているらしい。男は警戒を怠らず周囲を見回した。

 大河一樹は、無人農業システムの実験中に事故に遭い、そして今、まったく知らない世界へと迷い込んでしまった。自分の身体は若返り、奇妙な生物が現れ、武装した男が命を救ってくれた。一体どうなっているのか、答えはどこにもない。混乱と動揺の中、一樹はただ目の前に立つ男を見つめながら、かすれた声でようやく問いを投げかけた。

「ここは……どこなんだ……?」

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