「喜んでお引き受けします」
答えると、クラリスは満足げに微笑んだ。
「では早速今夕、訓練場で顔合わせを。私も同席するわ」
「承知しました」
湯気の向こうで支部長は瞳を細めた。
「それと……これは内々の話だけれど」
クラリスは一枚の帳簿を差し出す。帳簿の端、細かい数字が赤字で塗り潰されている。
「本部からの送金で、どうも不審な金額が紛れ込んでいるの。あなたの〈エクスセル〉なら気づくだろうと思って」
数字を拾えば、明らかに枝番の合わない支出。小規模な支部で扱うには大きすぎる額だ。
「調査が必要ですね。わかりました」
そう告げた時、悠斗は自分の胸の鼓動が早まるのを感じた。
転生初日。窓口業務に始まり、仲間候補の面倒を見て、支部長直々の極秘調査――いきなり盛りだくさんだが、不思議と怖さはなかった。
(前世で毎日二百件のクレーム電話を捌いた経験に比べれば……)
むしろ、数字が絡むほど燃えてくる。
茶を飲み干し、部屋を辞した時には、夕陽が窓から差し込み始めていた。


















