――ここで失敗は許されない。悠斗は〈エクスセル〉を起動し、秤に載せる前から重量・品質を自動計測。数字が脳裏で並び替わり、最終セルに「報酬金額:銀貨五枚+銅貨三枚」と表示される。
「確認いたしました。追加で品質ボーナスが付くため、銀貨一枚上乗せになります」
金額を告げ、一枚ずつ整えた銀貨を木箱に置く。その手際に、ティリアの耳先がわずかに紅潮した。
「……やればできるじゃない」
「助かるぜ! これで肉が食える!」
ガルドは笑顔でお礼を言うと、隣の新人列にいた小柄な少女に視線を移した。
「お、リリィ。依頼書は無事?」
彼女は肩まである赤茶の髪を三つ編みにし、背中には工具を詰め込んだ革鞄を背負っている。年若いがドワーフらしい頑強な雰囲気が滲んでいた。
「えっと、納品物はゴブリンの短剣二十本。それと追加オーダーの強化鋼を受け取りに来たんだよ。これが注文書」
差し出された羊皮紙には、稚拙ながらも綿密な設計図が描かれていた。
「在庫を確認します」
悠斗が魔法で倉庫目録を検索すると、強化鋼の在庫は二本分だけ。それも品質が条件を満たさないと赤字で表示される。
「申し訳ありません。強化鋼は現在欠品です。補充予定は来週……」
「来週⁉ それじゃ試作が間に合わないっ!」
リリィの頬が一気に膨らむ。
(まずい、せっかくの信頼を落としかねない)
とっさに、悠斗は自席奥の書架を振り返った。倉庫の手配書だけでなく、周辺支部の資材リストが保管されている。


















