異世界冒険者ギルドの日常 – 第4章:前編

「数字の証言者はどなた?」

「受付係、深山悠斗です」

 私が帳簿を差し出すと、彼女は一ページめくり、端末へ素早く転記する。

 唇がかすかに歪む。

「第四課、予想以上に深いわね。灰色宰相の影が後ろで微笑んでる」

「裏付けは十分です。転送経路の全ログ、魔紋炉暴走の因果関係も解析済みです」

 私は端末を提示し、セルのグラフを拡大した。水面下の無許可支出が時系列で波形を描き、そのピークが魔族教団の活動日と重なる。

「見事よ。あなたを臨時監査補佐官として招聘するわ。内部監査直行ルートを確保するため、あなたの解析が必要」

 思わず肩が跳ねた。窓口係が監査補佐官――だが驚く暇はない。

 その時、応接室の硝子窓が割れ、黒い煙弾が転がり込んだ。

「伏せろ!」

 ガルドがクラリスとマリエルを庇い、私は帳簿を抱え反射的に机の下へ。煙の中に紫光。影衛兵より上位、第四課直属エリミネーター部隊〈グレイ・ファング〉。

 ティリアが弾幕のように矢を放つが、暗器の鎖鎌が矢を払い、床を抉って迫る。

「通すか!」

 ガルドの大剣が鎖を弾き、鎖鎌が天井に突き刺さる。私は机を蹴って横倒しにし、盾がわりに前へ滑らせた。

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