異世界冒険者ギルドの日常 – 第4章:前編

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 王都グラン=アークは夜明けの鐘を鳴らしていた。尖塔が連なる城郭都市全体が淡紅に染まり、石畳の大通りには早くも行商の声が響く。

 私たち“日替わり定食隊”は重ねた帆布で荷馬車を偽装し、市門の隊商検問へ並んでいた。目的はただ一つ――財務局第四課を飛び越え、王国監査院へ直接証拠を届けること。

「顔を上げすぎないで。影衛兵の紋章を付けた衛兵が混じってる」

 ティリアが囁き、長弓の弦にそっと指をかける。

「分かってる。けど心臓は言うこと聞かねぇ」

 ガルドが胸を拳で叩くと、革鎧の下で鼓動がどくんと響いた。

 検問兵は荷札を確認し、封印印紙へ朱を入れる。

「内容は“乾燥ハーブと保存肉”。王都税一〇%が掛かるが?」

「承知しています」

 私は商人風に淀みない声を返し、革袋から税銀を取り出した。銅貨を二枚多めに添え、さりげなく“迅速審査”の合図を作る。

 兵士は一瞬眉を動かし、こっそり門標を示した。『東内環・倉庫街経由を推奨』――影衛兵が薄い区域だ。

 門を抜けた瞬間、息をつく暇なくクラリス支部長が馬車の幌から顔を出す。

「検問通過、ご苦労さま。これから監査院まで九つ角を曲がるわ。途中で“荷下ろし”の芝居をし、尾行を撒きましょう」

 その手には封蝋済みの報告書と、例の帳簿。私が徹夜でまとめた解析ログを添え、三重暗号をかけてある。

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