異世界冒険者ギルドの日常 – 第4章:前編

 倉庫街へ入ると、石造りの巨大アーチの下で荷を解くふりをしながら、私は〈エクスセル〉を起動した。リリィが作った魔導端末CLIPは、王都の気流・魔力濃度の微細変化を数値に落とす。

 セルが赤く点滅――屋根の連結排水溝に隠れた魔力感知の術式だ。

「上から監視。固定座標、三人」

 ティリアが建物陰に回り、矢を逆手に握る。

 ガルドは空箱を肩へ担ぎ上げ、屋根を見上げて大声をあげた。

「お~い! 荷が重くて倒れそうだ。誰か手伝ってくれー!」

 わざとよろめくガルドの巨体に倉庫番が駆け寄り、屋根の影がわずかに揺らぐ。

 ティリアの矢が閃き、排水溝に刺さると同時に感知術式はノイズで白消しされた。

「尾行感知、ゼロになったわ」

「次の角を二つ飛ばそう。監査院裏口に直行だ」

 午前八時、王国監査院。白大理石の列柱が連なる威容を前にしても、胸の奥で鳴る警鐘は止まらなかった。

 敷地を守る衛兵は紺の礼装。影衛兵とは別組織だが、情報が漏れれば裏で繋がっている可能性もある。

 クラリスが青い印章付き召喚状を差し出すと、門番は目を丸くした。

「第七監査官マリエル殿の直招状……失礼いたしました! 至急ご案内を」

 通された応接室は書類の山が壁になり、空気に羊皮紙の匂いが漂う。

 現れた女性監査官――マリエルは白銀の縁眼鏡をかけ、淡然とした色墨の瞳で私たちを見渡した。

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