異世界冒険者ギルドの日常 – 第4章:前編

 咳き込みながら《エクスセル》を起動――煙弾の化学式を即時解析、換気口までの流速を逆算し、天井の送排気弁を魔力で開放。煙は瞬く間に吸い上げられ、視界が戻る。

 リリィがとっさに放った閃光石が炸裂し、敵の目を焼く。隙を逃さずティリアの矢が喉元へ突き刺さり、第一の刺客は沈黙。

 しかし第二、第三の影が窓枠を越えて飛び込む。

「数が多い! 監査院の結界が切られてる」

 マリエルが歯噛みし、机上の法典を拳で叩く。

「非常警報が発動しない……内通者の細工ね」

 私は帳簿と端末を胸に押し当て、決断する。

「データのみ先に逃がします。五秒稼いでください!」

 端末の送信機能を最上位暗号で開き、クラリスが即座に魔力供給を開始。

「人は守る、数字は飛ばす。受付係の極意ね」

 送信バーが走り始めた瞬間、敵の刃が机を貫く。

 ガルドが腕で受け止め、血が飛散。だが笑ってみせた。

「これくらい朝のストレッチだ」

 送信バー、五十%。

 ティリアが矢尻にジャマー弾を装着、斜め天井へ撃ち込む。結界骨組みの魔力線を攪乱し、侵入者の動きを鈍らせる。

 七十五%。

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