異世界冒険者ギルドの日常 – 最終章:後編

 男の指が笛口へ触れる。

 同時にティリアの矢が発射――しかし矢は笛へ届く前に静止した。男が炉心から伸ばした紫鎖が矢を絡め取ったのだ。

 「純算派を甘く見るな。数字の奪い合いではなく、“割ったまま返さない”が信条でね」

 矢を囮に取られたが、ユウトは表情を崩さない。

 「奪い返さないさ。帳簿に載せるだけでいい」

 彼は紙片に最後の式を走らせた。

 =SPLIT_DEBT(λ債務, 借方:犯人, 貸方:世界樹祭収益)

 “誰が借りているか”を帳簿へ割付ける――セルが光り、笛から紫煙が漏れた。負債は男個人の勘定へ移動し、グローバル帳票からは逆にプラス記載が増える。

 「なっ……!? 私の残高がマイナス……!」

 動揺で鎖が緩み、ティリアの矢が解放された。音を立てて木管を貫通。割れた笛は空しく音をこぼし、債務霧は男自身へ逆流する。

 ガルドが踏み込み、男を押さえつけた。

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