異世界冒険者ギルドの日常 – 最終章:後編

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 吹雪が去った翌朝、ベル=フェルドの空は卵の殻のように薄青く澄み、久しく閉ざされていた補給道路に陽光が差し込んだ。雪面を覆う荷車の轍は昨夜のうちに凍りつき、そこへ列を組んだキャラバンの車輪が軋みを鳴らす。貨幣ではなく本物の物資が、ようやく北へ戻って来た――その光景を見届け、ユウトは胸のファスナーを一段締めた。

 「復元在庫を照合した分、実在のコンテナも補完できた。よし、まだ帳簿に齟齬なし」

 仮設倉庫の出荷口で《エクスセル》と手帳を突き合わせ、細かくペンを走らせる。脳裏に浮かぶセルの行列がすべて黒字でそろった刹那、深い安堵が背筋をほぐした。

 だが――その瞬間、警報ラッパが遠くで鳴り響いた。氷壁の向こう、鉱脈方面にうっすら昇る煤煙。

 ティリアが弓を肩に走り寄る。

 「まだ残党がいるわ! タグ信号が一つだけ移動してる」

 リリィはギアコンパスを振り、方向を測量。

 「赤線坑道の旧精錬炉跡。昨日のΩδ炉と近いけど別ルート」

 ガルドが大剣を背に「片付いてねぇと落ち着かねぇ」と獣人の牙をのぞかせる。

 クラリス支部長は指揮卓で地図を展開し、ユウトへ目配せした。

 「キャラバン護衛は私が残るわ。あなたたちは最後の空白を埋めてきて」

 頷いたユウトは帳簿の余白ページを一枚破り、空中で関数を記述。

 =LOCK_CELL(空白ID)

 タグ信号を紙片へ固定し、残党の位置情報をリアルタイムで焼き付けた。

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