異世界冒険者ギルドの日常 – 最終章:後編

 夕刻。ベル=フェルドの本倉庫で、最後の復元ログが緑に変わる。

 クラリスが受信紙を握りしめ、笑みを深くした。

 「全支部の貸借表、黒字へ回復。北の冬は越せるわね」

 ユウトは古い帳簿を閉じ、表紙に「空白精算済」と朱を入れた。

 ティリアは弓を肩に回しながら尋ねる。

 「これで本当に終わり?」

 「帳簿に空きがある限り、新しい不正は生まれるかも。でも次に空白が現れた時は、また数字で書き込むさ」

 リリィは工具を鳴らし、「書類より強いネジはないけど、ネジより強い数字もない」と笑う。

 ガルドは背伸びをしながら「終わったら肉祭り」と叫び、吹雪上がりの空へ息を白く吐いた。

 日報には短い一行。

空白セル:すべて記載済み

残高:笑顔 + 不可測

 雪雲が去り、星々が氷原に映った。それらはまだ帳簿に書き込まれていない無数の数字――だがユウトの目には、すでに温かな黒字に輝いていた。

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