星降る夜の奇跡 – 第3話

第1話 第2話

サヤは夜の冷え込みを考慮しながら、リュックサックに熱いお茶の入った水筒や簡単な防寒具を詰め込んでいた。今夜はユウタの案内で山の展望台へ向かうことになっている。村に来たばかりの頃とは比べものにならないくらいに気持ちが落ち着いてきたサヤだったが、それでも夜の山を歩くのは少し怖いと感じていた。しかし、不思議と尻込みよりもワクワクした気持ちのほうが勝っているのは、やはりこの場所で見上げる星空の魅力をすでに体で感じてしまったからかもしれない。

玄関を出ると、あたりはすでに夕闇に包まれはじめていた。日中の穏やかな明るさとは一変し、夜気が肌を刺すように冷たい。古民家の周囲は外灯もまばらで、ヘッドランプを頼りに足元を照らしながら進んでいると、背後から声がかかる。

「サヤ、こっちこっち」

振り返ると、ユウタが懐中電灯を片手にこちらへ小走りで近づいてくる。少し息を弾ませながらも、彼の瞳はどこか楽しげな光を帯びている。サヤも自然と笑みを浮かべてしまう。

「お待たせ。暗くなるの、思ったより早いね」

「この時期は特にね。じゃあ行こうか。展望台まではそんなに遠くないけど、街灯がないから足元に気をつけて」

二人は並んで歩き出す。街灯が少ないために山道はほとんど闇に沈んでいて、石や木の根がごつごつと顔を出している場所もある。懐中電灯で照らさなければ踏み外しそうになるほどだが、ユウタが先導してくれるおかげで迷わず進める。時折、夜の動物の鳴き声が遠くで響くたびにサヤは少し身震いするが、ユウタが振り向いて「大丈夫?」と声をかけてくれる。その優しげな笑顔を見ると、不安よりも心強さが増す気がした。

タイトルとURLをコピーしました