星降る夜の奇跡 – 第3話

道中の途中で、ふと見下ろすと村の家々の明かりが点々と灯っているのが確認できる。そこでようやく、自分がずいぶん高いところまで来たのだと気づく。暗闇を切り裂くように光を照らしながら、二人はさらに山道を奥へと進んでいく。夜風が吹き抜けるたびに木々がざわめき、その音が耳に心地よい。都会の喧騒からは想像もつかないほど、自然の息づかいが肌で感じられる場所だった。

しばらく歩いたあと、開けた場所に出る。そこがユウタの言っていた展望台らしい。見渡せば、空を遮るものが何もない場所が広がっている。山々の稜線が闇の中にうっすらと浮かび上がり、その上にどこまでも広がる夜空が展望台を覆うようにしている。サヤは思わず足を止め、吸い込まれそうな感覚に襲われた。頭上には無数の星が瞬いていて、まるで漆黒の幕にちりばめられた宝石のようだ。まばたきするのも惜しいほどの美しさに、言葉を失う。

「ここ、すごい……」

かすれた声でようやくそれだけをつぶやくと、ユウタは少し照れたように笑って、「だろ?」と嬉しそうに返す。すぐ近くには彼が運んできたらしい天体望遠鏡が据えられており、すでに簡単な調整が終わっているようだ。サヤはどこか興奮を覚えながら、「わあ、こんな本格的な望遠鏡で星を見るのは初めてだよ」と声を弾ませる。

ユウタは手際よく望遠鏡を覗き込み、「このあたりの星座は今夜、ちょうど見やすいはずなんだ」と言いながら、サヤに調整した望遠鏡を譲ってくれる。サヤが恐る恐る接眼レンズをのぞき込むと、そこには小さな光の集まりがはっきりと見えていた。肉眼で見るのとはまた違う、星団の淡い光の輪郭にサヤは息をのむ。自分がどれだけ宇宙から遠い存在だと思っていても、実はこんなにも近くに、偉大な世界があるのだと痛感する。

「すごい……同じ星でも、こうやって見ると全然違うね」

「でしょ? これは散開星団っていって、若い星の集団なんだ。昔、最初に望遠鏡で観測したとき、すごく感動したのを覚えてる」

ユウタが星座早見盤とメモ帳を広げ、星座の配置や神話の由来を語ってくれる。夜空にまたがる神話の登場人物たちが、まるで生き生きと頭の中に描かれてくるような話ぶりだ。サヤはユウタの星空への情熱に心を打たれながら、自分自身も夜空の世界へ深く引き込まれていくのを感じた。

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